ここは、何処だろう?
自分以外は、霧でよく見えない。
ここには誰もいない?
何も聞こえない。何も見えない。
一面、白しかない。
「・・・・・」
ふと、何か聞こえる。懐かしいような聞いた事のある音。
パパの声?違う。
ボンヤリ何か見えてきた。
私、水の中にいるの?その水の先に知ってる人がいる。
それは・・・誰?
「――――」
ハッと目が覚めた。ここは?どこ?
見た事無い天井。次第に頭の中がハッキリしてきた。
私、あのまま寝てしまったのかな。
ふと、気が付く。隼人はどこ?ぐるりと視線を部屋の中を見渡す。
ソファで寝ていた。安心した自分がいた。
今は、彼しか頼れる人がいない。彼の話をすべて信じるのなら。
それは、信じれない話。でも、あの状況を目の辺りにしてしまった今は、信じるしかない。
普段では信じられない事。もしかしたら、皆で騙してるのかもしれない。
ならどうして、私なんかを騙す必要がある。
家に帰りたい・・・ママに会いたい・・・
帰ったら何も変わらない日々が待ってるに決まってる。
そうよ、きっとそうだ。
帰ろう。


「――――何考えてるんだ!あいつは!」
隼人は、手に持っていた紙を握り潰した。
『ごめんなさい、家に帰ります』
そう書かれていた紙を。
自分が寝ている間に梓は出て行った。
(どうする?あいつの事はこのままにしとおくか?自分から戻ったのだし。)
(ダメだ!あいつらのだから梓の事は、ばれるてのかもしれない。それに・・・)
昨日、あいつの事を守るって決めたのは、自分だ。
とにかく、一刻も早く梓を見つけないと、まずい。
そうと決まれば、行動あるのみ。しかし、どうする?梓の家は知らない。
・・・どうすれば?
梓は・・・あいつの事を思い浮かべる、そして・・・
梓は制服を着ていた。そして、あいつと会った場所の周辺を探せば・・・
それしか思いつかない。
もしかしたら、あいつに会う前にあいつらに、こちらが見つかるかも知れないがしかたない。
「借りは返さないとな」
ふと、口元が緩む。もしかしたら、楽しんでるのかもしれない。
この命を賭けたゲームを。
「とても分の悪い賭けだな、本当に」
手持ちの物をカバンに詰め込んで部屋を出て行く。
そして、部屋には静寂が戻った。


「まったく、いまだに居場所がつかめないの?」
ヒステリックな声が響く。
受話器の向こう側からは、男の声がする。
「すみません。全力で操作してるのですが…
どうやら、あの事件で捜索に関わった戦闘員の家で確認されています。
それについても捜査中でして…その…」
「もう、いいわ!とにかく、今、あの子はどこにいるかが問題なの!あの子は大切な実験体なのよ!」
「はい!それは分かっています。」
「わかりしだい連絡をしなさい!いいわね!」
女は、乱暴に受話器を置いた。そして、ソファに座る。
「・・・なんて事、あの子、梓がいないと私の実験が進まない」
「大切な実験動物なのに・・・」それは、梓の耳にも届いていた。
少し前に、家に着いたのだ。
2日も留守にしていたので、後ろめたい気持ちがあったため静かに家に入った。
それがこんな事になるなんて、思いもよらなかった。
(ママ?なに言ってるの?私が実験体?実験動物?ママの研究ってなにそれ・・・)
どうやって家から母親に気付かれずに出てきたのかわからない。
気が付いたらあの場所にいた。あの時の場所。
隼人と出会った場所。あの悪夢が起こった所。
なぜここに戻ってきたのか分からない。
分からない事ばかり。訳の分からない怪物。訳の分からない母親の言葉。
訳の分からない組織。
私は――――何?人間じゃないの?
私は―――――誰?
私は―――――――
その時、ふいに隼人の顔が浮かんだ。
きっと彼なら一緒に考えてくれる。そして自分を守ってくれる。
何も確信も無いのに、そう思う。