ふと、前を見ると月森がやさしく微笑んでいた。
「もう、いいのか?」
「あっ、はい。お待たせしてしまってすみません」
「いや、構わないから…帰ろう」
そう言って前を向く月森。
いまだにどう冬海と接していいのか戸惑っている。
きちんと気持ちを伝え合った後でも…
自分がこんな気持ちになった事はなかったっから…


不意にコートを軽く引っ張られた。
月森は現実に戻された。
冬海が引っ張ったのだ。
「あっ、すまない」
「いえ、私の方こそ…歩くのが遅くて…すみません」
月森と冬海は、歩くスピードが違った。
いつもは、月森が合わせているのだが、たまにいつものスピードになってる時がある。
その時は、いつも冬海が服を引っ張る。
以前は、冬海が頑張ってついていたのだが、それだと彼女が疲れてしまう。
だから、言いづらいなら服を引っ張ってくれと…

今までは、自分が他人に合わせる事は無かったと思う。
そんな必要もないと思っていたが、彼女と出会ってからは変わった。
自然と彼女の事を思いやるようになってきた。
しかし考え事などをしてしまうと、いつの間にか自分のペースに戻ってしまう。
だから、気づかせてくれと…自分が、自分一人が先に行かないように…
彼女を置いていかないように…教えて欲しいと…


ふと、横を見ると静かに冬海が自分に並んで歩いてる。
いつまでもこうしていたい…
そう、思っている自分が不思議でしょうがない。
こんなにも一人の人を思う事は無かったのだから…
でも、嫌いではない。冬海だからかもしれないが…


そうして肩を並べて歩いてる内に駅に着いてしまった。
「あの、先輩。送ってもらって、その…ありがとうございました」
少し残念そうに冬海はお礼を言った。
そう、月森と一緒にいる楽しい時間は終わってしまう…
それは、月森も同じだ。
それを証明するかのように、二人は静かに見つめ合っていた。
そして静かに月森が
「ふゆ、いや笙子…コレを…誕生日だから…」
そう言いながら小さな紙袋を差し出した。
「っ…あの…あの…ありがとう…ございます」
冬海は真っ赤になってその紙袋を受け取った。
その中には、CDが一枚入っていた。
「あの…これ…あの曲の…」
「そう、俺達の記念の曲だ。もう、キミは持ってるかも知れないが…」
「いいえ、とっても嬉しいです。とっても…」
記念の曲…それは、二人で始めて…二人だけで合奏した曲…
「そうか、好かった。女の子にプレゼントなんてした事、無かったんで…その…喜んでもらえてよかった」
そう言いながら、月森は少し照れていた。
不思議だ、冬海の一言でこんなにも心が温かくなる。
「笙子、その…よかったら明日も会えないだろうか?一緒に合奏したいのだが…」
「はい、私でよければ…」
「キミじゃぁ無ければ意味が無い。キミがいいんだ」

「蓮…先輩…」
「あっ、…その…どうもそうキミに名前を呼ばれるのは、照れる…」
「くすくす、私も…そうですから…お相子です。蓮先輩」

「参った…早く慣れないといけないかもしれない…」
月森は、そう小さな呟きを吐いた。
「…?」
冬海は、少し不思議そうに月森の事を見つめていた。
「何でもない。…笙子、やはり家まで送るから。送らせて欲しい。いいか?」
「えっ?でも…いいんですか?」
「ああ、このまま別れるのは、寂しいから…あっ、いや…その…」
「私も…その…まだ、一緒にいたいです…」
「笙子…ありがとう…」


二人は、自然にお互いの手を握って歩いて行く。
これからも、ずっと…

 

最後は、月冬でした…
もう、難産でしたよ〜一番の(T△T)
とにかく、すべてのメンバーが出揃いました。