I Miss You

静かに屋上の扉が開いた。
今まで、一人の少女の静かな、小さい泣き声しか聞こえなった場所に新たな音が追加された。
その扉の前では、複雑な顔をした土浦がそこにはいた。
土浦は、その泣き声を発しているのが、冬海だと言うことを瞬時に分かった。
やはり、自分があの時、見た冬海の顔は、間違いではない事に。
こうして、ここで声を殺して泣いているのが証拠なのだから。
「冬海…」
出来るだけ、優しく、恐がらせないように…
でも、その声を聞いた途端に、冬海は体を強張らせた。
それは、後姿でもはっきり分かった。
「その…なんだ…なんで、そんなに泣いてる?」
土浦は、どう言えばいいのか分からない。
冬海が泣いてる、それは事実で、もしかしたら、自分のせいかも知れないのも分かる。
でも、何で泣いているのかが分からない。
だから、その原因を知りたい。

それでも冬海は、土浦に背を向けている。
静かに時間が通り過ぎていく。
土浦は、冬海が話し出すのを待っている。
それは、冬海も分かってる。
でも、何を言えばいいのだろうか?
思っている事を言えば、言いのだろうけど、そんな事を言えば、土浦に迷惑がかかる。
だから、
「…なんでも…ないです…先輩には…関係…ないです…」
そう言うのが精一杯だった。
「なっ!そんな事ないだろう!じゃぁ、なんで、あの時、なんであんな顔したんだ!」
そう怒鳴りながら、冬海の肩を掴んで、無理やり自分に向けさせた。
「っつ…先輩…」
こんなに怒鳴って、冬海を脅えさせてる。でも、止まらない。
「今、なんでここで、こんなにも泣いてるんだ!」
「…なんでも…」
「何でも無くない!俺のせいだろ?どうして泣く?」
冬海は、その瞬間に顔を上げた。
土浦を視線が絡み合う。
必死な顔をした、土浦が自分の前にいる。
この人のこんな瞳に嘘は、付けないと思った。


「…否定…されたと…思ったんです…私の事…」
「えっ?」
「あの時…先輩が…顔を…背けた…時…」
「……それは違う!そんな事、絶対に無い!」
土浦の大きな声に冬海の方が、驚いている。
当の土浦は、自分でも大きな声になってた事に、バツの悪そうにしている。
そして、今度は静かに
「あー、それは違う。冬海の勘違いだ。誰がお前を否定なんかするかよ」
「…だって…」
「だから、あれは、その…あー、ちくしょう。恥かしかったんだよ!」
「…恥かしい?どうして?」
「だから…お前にこの音楽科の制服を着てる自分を見られるのが…」
「なんで、ですか?似合ってますよ?」
「…いや、似合わないのは自分でも分かってるから…」
「そんな事無いです!素敵ですよ」
「…いや、だから…まぁ、いいや。お前が泣き止んだことだし…」
今度は、冬海は恐縮してしまってる。
「…すみません…」
「あー、いや、いい。俺も悪かった」
「いえ、私の方こそ、すみません」
「でも、嬉しいです。先輩に嫌われてなくて…」
「まったく、当たり前だろうが…」
「はい、良かったです。先輩の事、大好きだから…」
「えっ?」
「あっ…」
冬海は、真っ赤になって口に手をあてて、土浦はその冬海を驚いた顔をして見ていた。
そして、すぐに優しい顔になった。
土浦は、そんな冬海を見て、探していた時の疑問の答えを出した。

『俺は、こいつが好きなんだ』と。
だったら、話は早い。
行動すればいい。
冬海に分かるようにすればいい。
こんな勘違いしないように。
これからは、絶対に…
土浦は、真っ赤になっている冬海に優しく声をかける。
優しく、自分の思いを言葉に代えて…
「なぁ…冬海…       」



やっと、終わりです。ここまで読んでくれてありがとうございます。
音楽科の制服を着てる時に、冬海ちゃんが目撃されて、土浦が照れるというのを書きたかったんです。
なんで、こんなにも長くなったのかは、不思議です。
冬海ちゃんも泣かしてしまったし…
今度は、ラブラブ(苦笑)な話を書きたいです、ハイ。