「本当に、ここに泊るの?」
少女は近くにいる青年に問い掛ける。
「ああ、こういう場所の方が見つかり難いからな。」
そう言いながら、入り口に行ってしまった。
「そんな事言っても・・・」
少女の目の前の建物を見つめた。
(ここって、ラブホテルだよね?やっぱり・・・)
「置いて行くぞ。」
(仕方ない。覚悟を決めよう。何かあったら逃げちゃえ)
少女は、建物の中へ消えていった。

静まっていた部屋に、音が響いた。
少女と青年の二人が、新しい空気を運んできた。
(へぇ、中ってこうなってるんだ)
「何、キョロキョロしてるんだ?」
「えっ、だってこんな所、初めてだし・・・」
はっとして、少女は口を押さえた。
顔が真っ赤になってるのが自分でも判るくらいだ。
「・・・くっ、くっ、はっははは!!!」
不意に青年が大声を上げて笑い出した。
「なによ!!そんなに笑わなくっていいじゃない!!」
「悪い。まっ、安心しな。手は出さないからよ。」
青年は、笑いを堪えながら冷蔵庫の中から飲み物を二つ出した。
一つを少女に渡す。
少女は、それを受け取りながら問い掛ける。
「そんな事よりさっきの事、説明してよ!」
青年の体がわずかに硬直した。
「・・・・わかった。俺が知ってる事を話す。もう、後戻り出来ないしな。」
少女と青年の間に重たい空気が漂っていた。
青年の名は、隼人といった。そして、製薬会社に就職し、普通に暮らしていた。
しかし、ある日上司が持ち掛けてきたのだった。悪魔の誘いを。
「新しい薬の実験台になってくれないか?もちろん、破格の謝礼金を出す。」と。

「・・・それで、実験台になったの?」
少女は、その答えを知っているのに聞いた。
「ああ、俺には病気の妹がいるからな。金がいる。」
隼人は、目を伏せた。そして、ぽつりぽつり話し始めた。
新しい薬の実験なんかではなく、自分が化け物になっていた。
そして、似たような人間がたくさんいる事も知った。
化け物は、ゾアノイドと呼ばれたくさんの種類がいる。
ゾアノイドは、どんな命令もいう事をきく。それが己の命を失う事でも。
「だから、俺があんたを助けるの有り得ないんだ。」
「でも、私はあなたに助けてもらったのは、事実だし。」
「ああ、どうしてそうなったのか俺にも分からない。」
暫くの間、沈黙が続いた。
「ふぅ、考えても仕方ない。俺は先にシャワーを浴びるぜ。いいか?」
答えを待たずに浴室の方に行ってしまった。
「なっ、なんなのよ!いったい!」
不意に浴室から声が聞こえた。
「なんなら、一緒に入るか?」
「!!!! ばかー!!」
少女は近くにあったクッションを思いっきり投げ付けた。
「何、考えてるのよあの馬鹿。人が心配してるのに。」
少女は、部屋の中に一人になってしまった。
シャワーの音だけが部屋の中に響いていた。