頑張りやな君へのお題【月森 志水 火原】

頑張るのは何の為?
やり遂げた君の表情に
見守る立場からもう一歩(月森)
これが僕なりの応援(志水)
君を見続けて変わったこと
ねぇ、たまには…(火原)
涙を堪えて泣かないで
つらい時には笑わせるよ
「ありがとう」はこっちの台詞(火原)
君の癒しになれますように





見守る立場からもう一歩(月森)

今日のように天気のいい日の放課後は、
森の広場の隅から控えめなクラリネットの音が聞こえてくる。
それは、彼女の性格と似ていて、控えめで清らかな音楽。

いつからか、それを聞きながら自分のヴァイオリンを奏でるのか習慣になってきている。
どうしてだろう、それが楽しくて、切なくて自分でもよく分からない。


いつだったか・・・
森の広場の隅で、彼女は静かに泣いていた。
それを俺は偶然、見てしまった。

「大丈夫・・・大丈夫・・・、きっと・・・わかって・・・くれる・・・から・・・」
持っていたクラリネットをギュッと握りながら、呪文のように繰り返していた。
「頑張ってれば…大丈夫・・・皆に・・・迷惑・・・かけないように・・・すれば・・・平気・・・」
そう言いながらも、ハラハラと雫が落ちていく。
俺は、不謹慎ながらも綺麗だと思ってしまった。
そして、なぜ彼女が泣いてるのかも何となく分かった。
多分、いや確実に嫌がらせされてるのだろう。
自分にも経験があるから・・・
どうして、こうも人を傷つける事をするのだろう。

その時、何故か彼女を、助けたいと思った。
コンクール参加者だから?後輩だから?
いや、違う。
ただ、彼女、冬海さんには、泣いて欲しく無い。
ただ、それだけだった。

「冬海さん・・・」
どうして、声をかけたのか分からない。
彼女は、突然現れた俺に驚いていた。
「つ・・・きもり・・・先輩・・・あっ・・・あの・・・」
「無理はしない方がいい・・・」
「えっ?」
「泣きたいのなら、泣いてしまえばいい・・・その方が楽になるから・・・」
「・・・あっ・・・」
俺は、彼女を優しく、抱きしめていた。
「俺は知ってるから・・・君は努力しているのを。頑張ってるのを…知ってるから・・・」
「せん、ぱい・・・」
俺の腕の中で彼女は、静かに泣いる。
でも、先ほどのように我慢をしている泣き方ではなかった。
俺は、ただ泣いてる彼女を見守ってるしか出来ない。
こうして、彼女に胸を貸すしか出来なかった・・・



いつからだろう・・・彼女の事を見ていたのは・・・

彼女の奏でる音楽が心地よくて、それを独り占めしたく、でもそれは叶えられるのものではなく・・・
そう思うと切なくて、苦しくて・・・どうしようもない気持ちになる。

今日も彼女のクラリネットの音楽を聞きながら、自分のヴァイオリンを奏でる。
いつか、きっと、この気持ちが整理できたら、きちんと君に話したい。




これが僕なりの応援(志水)

「ねぇ、冬海さん合奏しない?」
彼女が落ち込んでる時は、こうやって僕は合奏に誘う。
「えっ、でも…」
「しよう、ねっ?」
少し、彼女は考えてから力なく微笑んだ。
その笑顔を見ると、僕の心が痛む。

何で冬海さんが悩んでるのかは、僕には分からない。
彼女をどうやって、いつもの笑顔に戻るのか分からない。
でも、冬海さんの笑顔が曇ってるのは、嫌だから…
僕に出来る事をしようと思っている。
僕は、色々と悩んだ時は、チェロを弾くと落ち着くから…
そんな事しか思いつかないから…
だから、僕は冬海さんと一緒に演奏する。
少しでも元気を出して欲しいから。
ねぇ、冬海さんは少しでも元気でた?
僕はいつも君と演奏をする時は、とても楽しい。
冬海さんと音を重ねる事が、嬉しいから…
冬海さんも同じだといいなぁ。

そう思いながら僕と冬海さんは、暫くの間、音を重ねていた。
「えーと、ありがとう、志水くん」
「うん、元気でた?」
「心配かけて、ごめんね」
「ううん、僕は冬海さんが笑顔なのが好きだから」
「えっ?えーと、あの…ありがとう…」
そう言いながら、冬海さんは顔を赤くして俯いてしまった。
何でだろう、それを僕は嬉しくて、気が付いたら冬海さんを腕の中に閉じ込めていた。
腕の中の彼女は、さっきより真っ赤になって、可愛かった。



ねぇ、たまには…(火原)

「ねぇ、たまにはさぁ…笙子ちゃんの方からしてくれない?」
少し寒くなってきた屋上で、一緒に練習していた火原が何の脈絡も無く言う。
こう言う事は、火原と付き合いだしてからよくある事だった。
今回は、何のお願いだろうと、今までの会話の中から色々と頭の中で冬海は、一所懸命考えていた。
その姿は、可愛かった。
まぁ、美少男美少女が入学したと噂になった片割れなのだから、当然と言えば当然なのだが。

「あの・・・すみません。何の事かわかならくて…その・・・火原先輩?」
冬海は、色々と考えても分からなかったらしい。
「あー、謝らなくてもいいよ。えーとね、笙子ちゃんからして欲しいなぁって思っただけだから…」
火原はバツが悪そうに自分の髪をクシャリと掻きあげた。
そう言われても、何の事だか未だに分からない冬海は、納得していない。
火原が自分に、何かして欲しいのだけは分かる。
だったら・・・
冬海は、クラリネットを持つ手を強めた。
「あの、先輩。私・・・あの、何をして欲しいのか分かりませんが・・・
 その、えーと、先輩の為でしたら、私・・・頑張ります。言って下さい!」
冬海は必死な顔をして、火原に詰め寄っていた。
「えっ、あっ、ありがとう・・・」
そんな冬海を驚きながらも、そんな彼女の思いに嬉しく思っている。
「えーとね、笙子ちゃんからね、その・・・ギュッとね、抱きついて欲しいなぁって…」
いざ思った事を口に出すと、恥ずかしく火原は、顔を真っ赤になっていた。
その言葉を聞いた冬海は、その火原以上に真っ赤になっていた。
「あっ、いや、いやだったらいいんだ。ごめんね、変な事言って・・・」
火原は、両手を思いっきり振って否定のジェスチャーをした。
分かってはいた。
冬海は内気で、そういう事はした事がない。
冬海と晴れて恋人になれても、火原からのコミュニケーションばかりだ。
冬海の事が大好きだから、火原は冬海を抱きしめる。
でも、そうすると腕の中で冬海は真っ赤になって固まってしまう。
火原にはそれが、少し寂しく思ってしまう。
自分だけがこんなにも好きなのかもしれないと、思ってしまう。
冬海は、優しいから付き合ってくれてるのかもしれないとか考えてしまう。
そんな事は無いのだが…
少し寂しいが仕方ない。
そう思って、火原が冬海に背中を向け
「えーと、笙子ちゃん、合奏しようか?」
この重くなった空気をどうにかしようと、意図的に明るく言った瞬間に背中に欲しかった温もりが来た。
「しょ、笙子ちゃん?!」
冬海は、火原の背中から手を回してギュっと抱きしめてる。
後ろから抱きしめられてるので、冬海の顔は見えない。
「い…いやじゃぁ、ないです。火原・・・先輩なら・・・」
背中から腰に回されてる彼女の手は、少し震えている。
でも、しっかりと火原を掴んでいる。
きっと真っ赤になりながら、必死に自分の願いに叶えてくれている。
その事がとても嬉しく、愛しい。
火原は、そっとその愛しい彼女の手の上に自分の手を重ねて瞼を閉じた。
「ありがとう。大好きだよ。」
優しく語りかけた。
その言葉に安心したかのように冬海の手からは、震えが消えていた。
「・・・私も・・・大好きです。先輩・・・」
冬海は、顔を真っ赤にしながらも火原の欲しい言葉をくれる。
そう、この先もずっと・・・




「ありがとう」はこっちの台詞(火原)

君はいつも「ありがとうございます」って俺に微笑んで言ってくれる。
俺は、特に何もしてないのに、なのに彼女は、
「そんな事ないです。先輩は、私に色々な世界を教えてくれました」
「えっ?なんで?」
「あの・・・先輩がいなかったら、私・・・オケ部には入部しなかったと思うんです」
「笙子ちゃん・・・」
「それは、火原先輩がとっても楽しそうに演奏してて、だから…その、私も一緒に演奏、出来たらいいなぁって・・・」
そんな嬉しい事言われて、体が勝手に動いてた。
笙子ちゃんを思いっきり抱きしめてた。
嬉しくて、恥ずかしくて、愛しくて、色んな感情が一杯で上手く表現出来ない。
でも、一つだけ言える事があった。
「俺、本当に笙子ちゃんが大好きだよ。だから、いつまでも一緒にいようね」
俺の腕の中で真っ赤になってる彼女は、少し恥ずかしそうに頷いてくれた。
「はい、私も・・・一緒にいて下さい」
「うん」
俺も笙子ちゃんも多分、真っ赤な顔をしてるだろうけど構わない。
だって、大好きな人とこうして気持ちを確かめ合うのはいい事だと思うから。

俺を好きになってくれて、ありがとう。