少し離れた所に土浦がいた。

冬海が自分の事に気が付いたのを分かると声を掛けてきた。
「さて、帰るか、家まで送る」
「えっ?でも…先輩、大丈夫です、駅までで…」
嬉しい申し入れだったが、冬海の家まででは、土浦がかなり遠回りになる。
確かに少しでも一緒にいたいが、そんな事は我侭だし、迷惑をかけたくない。
「あのなぁ、こういう時くらいは送らせろよ」
「…すみません。…あの…ありがとうございます」
「いいさぁ、お前の事だからそう言うだろうと思ったから」
冬海の頭にポンと手を置きながら、そう答える。
いつものように土浦が道路側で、冬海を守るかのように並んで歩く。
さり気ない優しさが冬海には嬉しい。

先輩にいつも頼りっぱなしにならないように頑張ってても、最後は頼ってしまう。
でも、それを先輩は「俺の特権だから」と言って笑ってくれる。
冬海はそんな土浦の優しさに惹かれたのかもしれない…

「…なぁ、笙子。少し時間が遅くなっても平気か?」
駅に向かう途中で、土浦が少し遠慮気味に聞いてきた。
「あっ、はい。平気ですけど…」
「そうか。なら、公園に少し寄ってもいいか?」
「はい」
公園までの間、二人で他愛もない話をする。
それだけでも冬海は楽しかった。
特に今日は、自分の誕生日に一緒にいられる事が何より嬉しい。


公園についてから二人は適当なベンチに座っている。
しかし、どうも公園についてからの土浦の様子が、少しおかしい事に気が付いた。
歯切れの悪い言葉が多くなってきたのだ。
何か話づらい事でもあるのか?
冬海は、自分が気がつがずに何か悪い事をしたのだろうか?と不安に思いだした。
そうなると二人とも話が続かなくなった。
暫くの間、静かに時間だけが過ぎて行った。
その沈黙を破ったのは、冬海だった。
「あの、先輩。その…何か…あったんですか?私、何かしましたか?その、そうでしたら…」
今にも泣きそうな冬海。
そして、それを見て慌てる土浦。
「あー、そうじゃない。お前は何もしてない」
「じゃぁ、なんで…」
「…コレを渡すタイミングが取れなくて…」
と言いながら土浦は、ポケットから小さな袋を取り出した。
土浦の手には、可愛くラッピングされている袋があった。
それを冬海の手に渡しながら
「はら、誕生日プレゼント」
そう言いながら、土浦の顔は少し照れていた。
冬海の方は、驚いた顔をしている。
「えっ…だって、プレゼントは先ほど貰いましたけど…」
「あれはみんなで、出し合って買ったプレゼントだろ?こっちは、俺からのプレゼント」
「そんな、二つも…いいですよ。私、あれだけでも嬉しいのに…」
「…貰ってくれるだろ?これも…」
「…いいんですか?」
「いいに決まってる。お前へのプレゼントなんだから」
「ありがとうございます。あの、開けてもいいですか?」
「ああ」
冬海は、丁寧にプレゼントを開けていく。
「わぁ、かわいい…」
そこには、冬海に似合うような小さく、可愛らしい髪飾りがあった。
冬海は、ふとそのプレゼントについての疑問が浮かんだ。
「あの、もしかしてこれ、先輩が買いに行ったんですか?」
「…さすがに恥ずかしいかったけどな」
女の子がたくさんいるお店で、この可愛い髪飾りを買う土浦を、ふと冬海は想像してくすくすと笑った。
「なに、笑ってるんだ?大体は想像できるが…」
「すみません。でも、とっても嬉しいです、先輩。ありがとうございます。大切にしますね」
そう言いながら微笑む冬海を見て、土浦は恥ずかしい思いをして買いに行ったよかったと思う。
彼女には、我侭かもしれないがいつも微笑んでいてほしい。
最初の頃はビクビクしていたのに、いつの間にかこんなにも優しい笑顔を見せてくれる。
それも自分に向けて…


「さて、名残ほしいが帰るか?」
「はい、そうですね」
「ほら」
土浦は、冬海に向かって手を差し出した。
冬海は、少し顔を赤らめて素直に手を重ねた。
「いつか、ここに指輪をプレゼントするよ」
土浦は、自分より小さな冬海の左手の薬指を指しながら言った。
「梁先輩…」
「まっ、先の話だけどなぁ」
「はい。私、待ってます…その時にまでに先輩の隣にいても恥ずかしくないようにがんばりますね」
「ははは、俺も頑張らないといけないなぁ…それじゃ」

二人は、手を握りながら、それほど遠くない未来の約束をした。
いつか来る未来の…

 
土冬でした。
こちらは、もうすでに付き合ってる状態です。