志水が空を見ていた。

声をかけれなかった。
まるで、そこだけが時間が止まってしまったように…
冬海は、そんな志水を見ていた。
静かに、その空気を壊さないように…
でも、空気が、時間が動き出した。

「冬海さん…」
大好きな人の声が聞こえる。
静かに、優しく…

「一緒に帰ろう…」
「はい…」


いつも思う、彼の周りの空気が綺麗だと。
彼はいつも自分の音楽を探している。
自分の音楽…
自分の…私にはそれがあるのだろうか?
そして、そんな彼の横にいてもいいのだろうか?
口には出せない疑問。
言葉にしてしまったら…どうなるんだろうか?

「冬海さん、少しここで待っててくれる?」
「えっ?はい。いいですけど…」

いつの間にか駅に着いていた。
『あっ、駅のコインロッカー。志水君、何か預けてたのかな?』

見ると志水は、ゴソゴソとロッカーから何かを取り出していた。
よく見るとそれは、綺麗なリボンをした大きな熊のぬいぐるみだった。
その熊はまっすぐ冬海に向かってきた。
「はい、これ」
「え?あの?志水君。その、これは?」
「あー、プレゼント。誕生日の」
「えっ?でもプレゼントは、さっき…貰ったけど?」
「うーん、僕だけのプレゼントが渡したかったから…いらない?」
「ううん、貰ってもいいの?」
「うん」
「ありがとう、ふわふわしてる」
そう言いながら、冬海はぬいぐるみに頬を寄せた。
それを見ていた志水は、少し眉を顰めた。
「今は、これ、僕が持つから」
と言って、冬海からぬいぐるみを取り上げてしまった。

突然、志水が怒ってる理由が分からなくて、戸惑ってる冬海。
「あの…ごめんなさい。私…」
自分の我がままなのに、冬海が謝ってる。


『違う、彼女が悪いんじゃない。僕が…』


「ごめん、違うんだ」
「えっ?でも…」
「いやだなぁと思ったんだ」
「何が?」
「ぬいぐるみに冬海さんが、取られるかと思った」
「えっ?私が…」
「僕がいるのに…目の前にいるのに…だから…」
「えーと…志水君…」
「だから、これ、僕が持つ」
「志水君。あのね、私、嬉しかったから。志水君にプレゼントされたのが…その…」
「うん、僕も冬海さんが喜んでくれたのは嬉しい。でも、僕じゃぁなくてぬいぐるみに抱きついてるのがなんか、嫌だったから」
「…あの…」
「ああ、そうか」

どうやら、一人で納得している志水。
その横には真っ赤になっている冬海。

「こうすれば、いいんだ」
と冬海をしっかりと抱きしめた。
「しっ、志水君?!」
突然の行動に冬海は、大混乱中。

「どうしたの?冬海さん」
「あ、あの…どう…して…その…」
「こーしたかったから。冬海さんはいや?」
「えーと…いや…じゃぁ…ない…です…」
「よかった。僕、冬海さんといつもこーしてたいなぁ」
「えっ?それは…」

「冬海さんの事、好きだよ」

そう、志水は冬海に囁きかけた。
志水の腕の中にいる冬海は、さらに真っ赤になった。
自分の腕の中で小さい彼女。
でも、彼女の存在は自分には無くてはならない存在になったいた。
それは、先ほどはっきりした。
いままでずっと、モヤモヤとしていたが、理由がわかったから…

『そう、僕は彼女が好きなんだ。いつもそばにいて欲しい。自分の音楽は、彼女に行き着く』

いつまでも、冬海が俯いているのが、真っ赤になってるのが可愛い。
でも、彼女の気持ちを知りたい。

「ねぇ、冬海さんは?僕の事、どう思ってるの?」
「あっ…その…私も…好きです…」
それは、とても小さい音。
消えそうで、でも、志水には十分過ぎる思い。
「ありがとう」
「ううん、私の方こそ…その…ありがとう」
「うん、帰ろうか?送っていくね」

志水はしっかりと冬海の手を握って
「いつまでも、僕のそばにいて」
「はい、私でよければ…」
「うん、冬海さんがいいんだ…」

二人の小さな約束。
いつまでも一緒に…

 
志冬でした。
偽者注意報発令(^^;)
あう、志水君、難しいです。