ACCIDENT!!

ガチャッと練習室の扉をあけた。
誰もいない部屋。俺は、まっすぐに窓際まで行き窓を全開に空けた。
あいつ、リリにファータ達に聞こえるように。
そうしなければ、意味がないから。
そして、ピアノの椅子に座る前にポケットの傍に手を持っいき、声をかける。
「笙子、着いたぞ。出てこれるか?」
俺のポケットには、小さくなった笙子が入ってる。
ファータ達に手違いで魔法をかけられたから。
「あっ、はい。大丈夫です」
いつも小さいと思っているが、今はさらに小さい。
俺の手に乗ってしまうんだから。
手に乗った笙子をピアノの上に置く。
「ここで、いいか?」
「はい」
ピアノの上にちょこんと座って、にっこり、笑う笙子。
こうなっても可愛いと思うのはどうかと思うが、可愛いものは可愛い、仕方が無い。
それを悟られないように、俺もピアノに向かう。
「さて、なにを弾くか?リクエストはあるか?」
「えーと、そうですね。うーん、子犬のワルツ?」
「了解」
白と黒の鍵盤の上を俺の指が踊る。
笙子は、瞳を閉じて曲に聞き入ってるみたいだ。
暫くは、ピアノの音だけが聞こえていた。
曲が終わりを告げた時、待っていた奴が姿を現した。
途中からピアノを弾くのに集中してしまったから焦った。
「今の曲は、よかったぞ♪ 土浦梁太郎」
「!!」
毎回、突然俺の前に現れる。
こいつはコンクール参加者以外見えないから、はたから見たら一人で喋ってる変な奴になる。
それで俺は、どれだけ迷惑を被っているか・・・
分かってないだろうな、こいつは。
今回だって、現れるのを待っていたが、どうしてこうバットタイミングで現れるんだ。
ぜったい、ワザとやってるしか思えない。
「んっ、どうしたのだ?土浦梁太郎。おや?そこの小さいのは冬海笙子か?」
「リリちゃん・・・」
「どうしたのだ?そんなに小さくなって?」
リリの頭を片手で鷲掴みにしながら
「お前の部下がやったんだよ。リリ」
「は、放せ〜!土浦梁太郎!我輩が何をしたのだ〜!」
「部下の後始末は、上司がするのが常識だよなぁ!リリ」
「へっ?部下?あいつらが何かしたのか?」
「したから、笙子がこうなったんだよ!」
「あー、なるほど!」
リリは、納得した顔でポンと手を叩いた。
「お前なぁ〜!」
「せ、先輩。落ち着いて下さい」
俺とリリの遣り取りに心配になったのか、笙子が間に入ってくれた。
「冬海笙子〜! 土浦梁太郎が虐めるのだ〜」
そういいながら、笙子に抱きついた。
「あっ、こら何をしてる!離れろ!」
リリを無理やり笙子から引き剥がす。まったく、油断も隙もない。
今の笙子は、リリ達と変わらない大きさなんだから。
「ぶー、ケチなのだ。土浦梁太郎」
「そういう問題じゃないだろ!」
「くすくす、仲がいいんですね」
「誰と誰がだ?笙子、そう言う冗談は止めてくれ」
「酷いのだ、土浦梁太郎。我輩とは仲良くないのか?」
「とにかく、そんな事は後だ。笙子を元に戻せ!」
「あっ、忘れていたのだ」
こいつは・・・本当は、俺達で遊んでいるんじゃないのか?
疑いたくなるぜ、まったく。
暫くリリは、笙子の周りを飛びながらブツブツ言いっては、一人で納得しているようだった。
いい加減、痺れを切らした俺は、
「どうなんだ?元に戻せるんだろうな?」
「んっ?元に戻せるが…今は、無理なのだ」
「どう言う事?リリちゃん?」
つまり、リリの言う事によれば、少し複雑に魔法がかかっているんで、キチンと調べてから元に戻す魔法を
かけた方がいいらしい。
「どれぐらい掛かるんだ、調べるのに?」
「そんなに掛からないと思うのだ。そうだな、一時間位なのだ」
「一時間ですか?…」
「わかった、ここで待ってるからとにかく早くしろよ」
「リリちゃん、よろしくね」
「そうか、分かったのだ。今、調べてくるのだ」
ポンと来た時と同じようにいきなりいなくなった。
そして、また俺と笙子だけが練習室に残った。
さて、あと一時間、どうするか?
「あの…先輩、すみませんでした。私一人で待ってますから…その、先輩は…」
笙子の事だから、待つのは自分一人でいいと言いたいんだろうが、そうはいくか。
「あのなぁ、笙子。ここで、お前一人残して俺が帰ると思うか?」
「…思いません。でも、私のせいで…あの…」
「いいんだよ。俺が一緒に待ちたいんだから。それとも俺がいたら迷惑か?」
「そんな…事、ないです。嬉しいです」
真っ赤になって、俯いてる笙子。
「なぁ、もっと俺に頼ってくれていいんだぜ。それともおれは、頼りないか?」
笙子は、パッと顔を上げた。その瞬間、俺と目が合う。
「そっ、そんな事ないです。私、梁先輩にばっかり頼ってしまってて、迷惑になるんじゃないかって心配してて…
その…いつも自分で頑張らないと、と思ってて…えーと」
笙子は、胸の前で握りこぶしをしながら一生懸命、話をしている。
そんな姿さえも可愛いと思ってしまうんだから、どうしたもんか。
「それなら、心配しなくてもいい。俺は、迷惑なんてこれっぽっちも思ってないからな。
それよりか、もっと頼ってくれてもいい位だ」
「先輩…えーと、でも」
「いいんだよ、俺を頼ってくれて。なっ」
「///はい…」
ピアノの上にいる小さい笙子と俺は、暫く見つめあっていた。
なんだか、目線を外しづらくて…
そんな時にまた、あいつが邪魔をした。
「わかったのだ〜!冬海笙子!土浦梁太郎!」
「んっ?どうしたのだ?二人とも?」
俺はピアノに突っ伏して、思った。
絶対にこいつ、ワザとしてるに違いない!
バットタイミングで出てきやがって〜!



「よかった、元に戻れて」
笙子は本当に嬉しそうに言った。隣で聞いていた俺もそう思う。
あれから魔法をかけた奴らもこってりと、リリから説教をされていた。
まっ、自業自得だしな。
「でも、少し楽しかったかも…」
「んっ?そうなのか?」
「えーと、先輩の色々な一面も見れましたし…あっ、ごめんなさい。不謹慎ですよね…」
「いや、いいけど。俺は、もう勘弁して欲しいよ。小さいとこういう事は出来ないからなぁ」
「えっ?きゃ」
笙子を優しく抱きしめた。
腕の中で真っ赤になってるのが手に取るように分かる。
背中に遠慮しがちに笙子の手が回って、俺の制服を強く握った。
「私もです。小さくなった時、怖かったです。
でも、でも、先輩がいてくれたから…私、怖くなくなったんです」
「笙子…」
「先輩がたくさんの勇気をくれるから…私、頑張れるんだと思います。だから、私も先輩の役に立ちたいです。
でも、まだ何も先輩の役に立たないから…その…がんばりますから」
真っ直ぐに俺を見ながら、そう言う事を言う。
まいった、だから、こいつを好きになったのかもしれない。
本当に強いこいつだから。
「笙子は、俺の傍にいてくれればいい。お前が笑ってくれれば、それだけでいい」
「えっ?でも…」
「それでいいんだ」
「…はい。わかりました。梁先輩」
「ああ」

「おー、まだ帰ってなかったのか?ふたりとも」

「!!」
とっさに笙子が離れた。
いなくなったんじゃないのかよ!
こいつ、絶対に疫病神だ!
「なんなのだ?我輩が何をしたのだ〜?」
「うるせー、毎回、いい所で出てきやがって!」
「せっ、先輩、落ち着いて〜」


コンクール期間中のある日の出来事でした――――

おしまい

 

やっと、終りました。
話の流れは出来てたんですが、文字にする時に大変でした。
上手く文章にならなくて・・・
どうも、土浦君で遊ぶのが楽しくなってきたかも…(いい迷惑だね)
最後の方は、ラブラブで終らせようと思いましたが、やはり最後はこういうオチになりました(^^;