欠乏症

「久しぶりにあう君は、昔と変わらない笑顔を俺にくれた。
前にあったのは、世間で言う夏休みの時。
俺の教え子が全国大会に出るのを知ったから、どうにか休みを取って応援に行った時。
みんなに会えるのが嬉しくて、でもそれ以上に君にあるのが嬉しかった。
いまは、学生の時みたいにすぐに会える距離にはいないから…
すごく、心配になる。
離れてる時に悲しくならない?辛い時は無い?寂しいくは無い?
心配で聞いても君は、頑張り屋さんだから大丈夫という。
だから、余計に心配になるんだ。
俺の知らない所で泣いてないかと…
でも、そんな状態にしたのは、紛れも無い俺自身で。
それももう限界。


「まだ、こっちはあっちより暖かいね」
そう言いながら、二人で公園内を歩いてた。
今日は、11月3日。文化の日。そして、大好きな彼女の誕生日。
俺、火原和樹はやっとの思いで休みを取って彼女のいる横浜に来た。
今日一日だけの休み。朝一番の電車でこっちに来て、最終便で帰る。
それでも、今日は君に逢わないといけないから。
「そうなんですか?あちらは寒いんですか?風邪とか気を付けて下さいね?」
今日、来る事を知らせたら、とっても喜んでくれたけど無理はしないでと言われたっけ。
それでも、朝早くから君は迎えに来てくれた。
それだけで、俺は嬉しいんだよ。
「うん、大丈夫。最近はあっちの気候にも慣れたしね」
そう言いながら、ガッツポーズをしてみせる。
「ふふ、でも、無理はしないで下さいね」
「うーん、そんなに頼りない、俺?」
「えっ?そうではなくて…あの…」
「はは、わかってるよ。うん、心配してくれてありがとうね」
「あっ、はい。お見舞いにすぐには…行けないですから…」
その言葉にズギッって感じがした。
そう、学生の時には、寂しければすぐにいけなくても、次の日にでも逢えた。
ほんの少し、我慢すれば…よかった。
今は、そんな事出来ない。学生の時とは違うから…自分も彼女も…
「あの…でも、でも、そうなったら私、がんばってお見舞いに行きますから…その…」
笙子ちゃんは、両手を握りしめてそんな可愛い事を言ってくれた。
俺が静かになってしまったからかもしれない。
今、言ってしまおうかな。
本当は、もっとロマンチックにとか思ってたけど。
いいや、今、言いたいしね。
「あのね、お見舞いに来てもらうのも嬉しいけど…えーと、それだけじゃぁ、なくてね…
 ずっと、俺の傍にいてくれる?」
「えっ、あの…今も傍にいますけど?」
「…あー、そういう意味じゃなくて…」
「?」
俺は、深呼吸して、ポケットの中にある小さい箱を彼女の前に差し出して
「俺と結婚して下さい。そして、これからもずっと傍にいてほしいんだ」
「えっ?あの…それって…」
「うん、プロポーズ。だめ?」
「…駄目なはず…ないです…嬉しいです…」
そう言いながら、彼女の目には涙が浮かんでた。
「よかった。断れたらどうしようかと思った」
「断るはず、ないです…でも…私でいいんですか?」
「うん、笙子ちゃんがいいんだ」
そう言いながら、俺は、箱に入ってた指輪を彼女の指に填めた。
でも、それは…
「あれ?大きかった?」
「…くすっ、そうみたいですね」
「うー、決まったっと思ったのに…なんで…」
「無くさない様に気をつけますね」
少し、ふて腐れる。だって、かっこよく決めたかったのにさぁ。
でも、横で嬉しそうにしている笙子ちゃんがいるから良しとしよう。
「笙子ちゃん、大好きだからね」
そう言ってギュって抱きしめる。
「えっ、はい…私も…です…」
俺の腕の中で真っ赤になって頷いてくれてる彼女がいる。
それだけで、元気になれる。
不思議だよね、彼女の言葉で、仕草で、こんなにも幸せになれる。
「今日は、笙子ちゃんの誕生日なのに俺の方がプレゼントもらった」
「あの…そんな事ないです。私、とって嬉しいです。忘れない誕生日になりました」
「うん、俺も忘れないよ。二人にとって大切な日だから…」
笙子ちゃんの額に自分の額をくっつけながら、
「ハッピィバースディ、君が生まれてきてくれて、そして、俺を好きなってくれて、ありがとう」




「これから、忙しくなるね」
「そうですね、年末ですし…」
「うーん、少し違うよ」
「えっ、違いますか?」
「うん、だってお互いの家に挨拶に行かないとだめでしょう?」
「あっ…そうですね…私、大丈夫…でしょうか?」
「うん?何が?」
「あの、その、私で…あの…」
「あっ、そんな事?大丈夫だって!母さん、笙子ちゃんの事、気に入ってるしね」
「そうですか?でも、がんばりますね」
「はは、俺もがんばろう!でも…」
「はい?えっ!あの…」
「もう少し、ギュってしててもいい?」
「あの…はい?///」
「俺さぁ、あっちにいる間、本当に笙子ちゃん欠乏症だったんだ…」
「欠乏症…ですか?」
「うん、メールや電話しててもやっぽり、こうして逢いたくなっちゃってさぁ…
 でも、自分が選んだ道だから、中途半端にしたくなかったし、まだ、教師になったばかりで
 笙子ちゃんを連れて行けなかったし…ごめんね」
「…それなら、私も先輩欠乏症です」
「はは、一緒だね。でも、これからは大丈夫だね」
「そうですね」
「あっ、でもすぐには無理かな?本当は、このまま、連れて帰りたいけど…」
「…あの、すぐは無理かもしれませんが、出来るだけ早く、先輩の元に行きます!だから…待ってて下さい」
「…うん!待ってるね。笙子ちゃんが来るのを。そして、俺が仕事から帰って着たら、
 お帰りなさいって言われるのを楽しみにしてる」
「はい」
「うん、俺はまだ、未熟だけど頑張っていいダンナ様になるね」
「はい、私も頑張ります」



冬海ちゃんお誕生企画にてUPしたものです。
今回は、火冬となりました。コルダ3の後の設定です。
コルダ3は、8年後の夏なので、その年の11月3日です。
火原も教師ですが、冬海ちゃんは、何になってるんでしょうね?
男子は全員、分かってるんですけどねぇ…
なので、こちらでは火原先輩のお嫁さんになってもらいました。
ここまで、読んでくれてありがとうございます♪