Action Ryotaro×Shoko

「ここをこうすれば、解けるだろ?」
そう言いながら、土浦先輩が使ってるシャープペンは
スラスラと答えを書いていく。
私といえば、その事を一生懸命、理解していく事に
専念してした。
せっかく、先輩が自分の為に時間を割いてくれてるのだから…

先日、数学で分からない問題があった。
そんな話をしながら先輩といつものように一緒に帰った。
そして、いつの間にか先輩の家で教えてもらう事になっていた。
驚いたけど、とても嬉しかった。
不謹慎かもしれないけど、休日でも先輩と一緒にいれる事が
素直に嬉しかった。

先輩は、春から音楽科に編入されて、色々と忙しいそうにしてから、
私なんかが邪魔をしてはいけない。
ただでさえ、大変なのにこうして、私の事も気にかけてくれる。
本当に先輩は凄い方です。
音楽もスポーツも勉強もできて、お料理だって…
本当に私なんかが、そばにいてもいいのですか?
といつも思ってしまう。


「分かったか?」
「あっ、はい。えーと…こうすればいいんですよね?」
「ああ、そうだ。さずがだな、少し教えただけで…」
「そんな事ないです。先輩の教え方が上手なんです」
私は、隣に座ってる先輩に向かって力説した。
本当にすごく分かりやすくて、それでいて親切に教えてくれている。
「…そんなに褒める事じゃぁないだろ?」
「そうですか?でも、本当に分かりやすかったんです」
「まぁ、そう言われて悪い気はしないなぁ」
そう言いながら先輩は、私の頭を撫でてくれる。
私はこの仕種が好き。
先輩の大きくて、優しい手で撫でられるのが好き。

ふと、先輩の顔を見たら、視線が合った。
「本当にお前は…何でも一生懸命だな」
そう言ってくれた。
でも、さっきの先輩の表情は…
少し寂しそうな…笑顔だった…
胸の奥がズキリと痛んだ。
この痛みは、先輩を好きになった時に知った痛み。
今まで知らなかった感情。
そして、自分がこんなにも貪欲で我が儘だと知った。
先輩はそれらの感情をすべて包み込んでくれた。
でも、先輩の思いは…
私は先輩の思いに答えられているの?

突然、心配になった。
先輩に頼ってるばかりでは、無いだろうか?
多分、ううん、そうだ。
先輩は、何でも一人で出来てしまう。
私なんかが、お手伝いしなくても大丈夫だろう。
でも、私は先輩に何をして上げれるのだろうか?
「せっ、先輩。私にできる事ありませんか?」
「なっ、突然、どうしたんだ、冬海?」
「えーと、たいした事、出来ないと思いますけど…その…」
「…冬海?」
「私、頑張りますから…」
「あのなぁ、冬海。落ち着いて説明してくれ。話がみえん…」
「あっ…すみません…」

自分の思っている事を話した。
さっきの先輩の寂しそうな表情の事、私が思っていた事…
多分、言わなくてもいい事も言ったかも知れない。
思った事を話すのは、いまだに苦手。
でも、一生懸命に先輩に話した。
なぜだか、分からないけど…
ううん、違う。
先輩のあんな顔、見たくないから…

先輩は、そんな私の話を真剣に聞いていてくれた。
それだけで、嬉しくて泣きそうになる。
「悪かった…俺は、そんな顔してたのか…」
「私のせいなんですよね?私のせいで…」
「それは、違う。俺の気持ちが弱いせいだ」
「そんな事、ないです」
「違うんだ、冬海。お前が思ってるような人間ではない」
「先輩…」
先輩は、大きな溜め息をつきながら、大きな手で優しく私の頬を包み込んでくれた。
「俺は、弱いよ。こうしてお前に触れたいのに、怖くて出来ないでいる。
怖いんだ、これ以上、お前に触れたら嫌われるんじゃないかと思うと…」
「先輩…あの…」
「お前は、そんな俺を頼ってくれている。それは、嬉しい事だ。
でも、それだけじゃ、物足りなくなってきているのも事実だ」
先輩の声は、いつもとは違い、弱々しかった。
「幻滅しただろ?情けないヤツで…」
「そんな事…ないです。私…大丈夫ですよ?」
「冬海?」
「どんな事あっても、先輩の事、嫌いにはなりません。絶対に…」
「…ありがとうな」
そう言って先輩は、私に優しいキスをしてくれた。



2009・8/15発行 いつも君のそばに おまけ本 初出