Action Kiriya×Shoko

「なぁ、いつまで俺は衛藤くんなわけ?」
そう言ったのは、一つ年下の衛藤桐也くん。
彼と会ったのは、去年。
吉羅さんの親戚で、よくこの星奏学院に来てた時に出会った。
あの時はこうして、練習室で一緒に合奏するなんて思わなかったけど…


「えーと、衛藤くんは、衛藤くんだと思うんですけど…?」
そう答えると彼は、大きな溜め息をついた。
「あのさぁ、仮にも彼氏なんだから、桐也と言えっていつも言ってるじゃん」
「でも…」
「それに、あんた、いつも俺にさえ敬語だし…」
そう言いながら、衛藤くんは拗ねたように言った。
たしかにそうなんだけど…
何だか、衛藤くんは、年下の様な感じがしないからかもしれない。
今さら、直せと言われても困る。
癖みたいになってるし…
それに…


「なぁ、何で?」
「えーと…その…ダメですか?衛藤くんじゃぁ…」
「うん、ダメだね」
「…」

たまに、衛藤くんはこういう無理を言う。
私は、困ってどうしようと思いを巡らせる。
どうしたら、いいのかなぁ?
きちんと衛藤くんに話せばいいのだけど…
どう言ったらいいのだろう…
色々と考え込んでいた時に、ふと顔を上げてみた。
その時、衛藤くんの視線と合った。
いままで、考えてた事がすべて真っ白になってしまった。
こうなると、私は、下を向いてしまう。
何も考えられない。
顔が真っ赤になっていくのが、自分でもよく分かる。
きっと衛藤くんはあきれてるんだろうなぁ…
そんな後ろ向きの考えばかりが浮かんできた。

そんな時、ふと抱きしめられた。
その状態だと気が付くのには、少し時間がかかったけど…
「あの…あの…衛藤…くん?」

どうして、彼がそんな事をしたのか分からない。
衛藤くんは、たまにこうしてスキンシップをしてくる時がある。
そんな時は、いつも私は固まってしまう。
嫌いじゃぁない。
好きな人と触れ合うのは、嫌な事ではない。
ただ…
ただ…慣れてないだけ…
どうしていいかわからないから…
そして、恥ずかしいから…

「本当にあんたは、わかってるやってるの?」
少し掠れた衛藤くんの声が聞こえる。
「あの…?」
なんだか、衛藤くん苦しそうな感じ…
「あの…具合でもわるいのですか?」
そう言ったら、また大きな溜め息が聞こえた。
抱きしめられてるから、衛藤くんの顔は見えない。
「あのさぁ…いいや、それが笙子なんだよなぁ…多分…」
「あの…?」
具合が悪いんじゃぁないみたいで、少しホッとしたけど、
何が私なんだろう?
「えーと、あの、気分が悪いんではないんですね?」
「はぁ、それは平気。ただ…」
「…ただ?何ですか?」

抱きしめてた衛藤くんの腕が緩んで、その大きな手が私の顔を包み込む。
そして、彼と向き合う。
「ただ…笙子が足りない…だけ…」
そう言いながら、私に優しいキスを落としていく。
何度も衛藤くんの甘い唇が…



「なぁ、あんたは無意識だろうけど、あんな仕種したらさぁダメだからな」
「あんな仕種?」
どんな仕種だろう?
私、そんなに変な仕種しただろうか?
そう色々と考えていると、衛藤くんが
「それだよ。まったく…さっきもだけど、あんたが一生懸命考えてる時の仕種」
「えっ?」
「それ、やめろとは言わないけど、男の前ではやるなよ」
「えっ、あの…」
「可愛くて、抱きしめたくなる」
「えっ?きゃっ!」
そう言ってまた、抱きしめられた。
「あっ、あの…えーと…」
「あのさぁ、笙子は、またキスして欲しいの?」
「えっ?えっ?」
「そんな顔してるとしたくなる」
また、キスの雨が降ってきました。
それは、甘い雨が…


衛藤くんに、色々と振り回されそうです。
でも、それでもいいと思うのはどうしてかしら?



2009・8/15発行 いつも君のそばに おまけ本 初出