俺の彼女と俺の恋愛事情は…

日本に帰って来てから俺は変わったかも…

ヴィオリンの音が優しくなったと言われた。
俺としては、以前と替わった演奏はしていない。
変わったのはきっと、あんたに合ったから。
あんたに恋をしたから・・・
それは、俺にとっていい事?それとも悪い事?
どうなんだろう?
分からない、でも、あんたが嬉しそうにすると俺も嬉しくなる。
あんたの行動一つで、こうも自分の気持ちが変わるのには、いまだに戸惑う。
それは、音楽にも影響をもたらす。
以前の俺ならば…絶対に認めたくなかっただろう。
俺の演奏に音楽を変えたくは無かったから…



イライラする。
俺は、星奏学院の音楽科に入学した。
一つ上には俺の彼女となった冬海笙子がいる。
たった、一つの年の差なのに、何でこんなにも大きいんだろう・・・
アイツの周りには、コンクールで仲良くなったヤツやその時にできたファンとかがいた。
別に気にしなければいいだろうけど・・・
ガキだと思われても仕方が無い。
アイツが他のヤツに微笑むのイヤだから…



「なんであんたにそんな事、言われないといけない訳?」
衛藤桐也の目の前にいる女の子にキツイ言い方で聞き返した。
「だって、本当の事よ。冬海さん、貴方には似合わないわ」
「ふーん、だから、あんたにしろって言うの?」
「そうよ、私だったら、お似合いだと思うわ」
自信たっぷりに衛藤の前にいる音楽科の女の子は、言い切る。
まるで、自分が彼女になるのが当たり前のように。
「悪いけど、あんたじゃぁ、ダメだね」
「なっ、なんでよ!あんなオドオドしてるだけの子じゃない!
 アンサンブルとかだって先輩の後を付きまとってるだけじゃぁない!」
その言葉を聞いた途端、衛藤の腕が女の子が背にしている壁を殴った音がした。
「ひっ・・・」
「いい加減にしないと、女でも殴るぜ・・・いいか、これ以上笙子の悪口、言うな!」
「・・・だって・・・」
「何だよ・・・殴られたいか?あんたが俺と笙子の事、言う筋合いは無い!」
「・・・」
「もう、俺の前に出てくんなよ。あんたの顔なんてもう、見たくない。じゃぁ、な」
そう言い放って、衛藤はある場所に向かって行った。


「聞いてたんだろ?さっきの・・・」
森の広場の奥で、ひっそりと立ってた少女に優しく語りかけた。
先ほどの話の途中で、衛藤は冬海が逃げるように走っていくのを、視界の端に見かけていた。

「衛藤くん・・・あの、ごめんなさい・・・」
「なんで、あんたが謝るの?」
「だって・・・覗き見みたいな事・・・してしまったから・・・」
「別に見たくて見たわけじゃぁ無いでしょ?あんたの事だから」
確かに衛藤の言う通りで、偶々通りかかった冬海の耳に聞こえてしまっただけだった。
「そうだけど・・・でも・・・ごめんなさい・・・」
「また、謝る。何でいつも謝るのさぁ?あんた、俺の彼女なんだから」
「・・・でも・・・」
「でもも、謝るのも禁止するよ、マジで」
「・・・衛藤くん」
「なに?」
「どうして、私なの?」
「・・・前にも言ったよね?俺はあんたが好きだって」
「えーと、それは、聞きました。でも、私、衛藤くんに迷惑を・・・」
「いい加減にしろよ!」
「っ・・・」
衛藤のイライラが爆発した。
さっきの事もあったし、以前からの自分勝手な気持ちもあって、冬海にあたってしまった。
でも、もう止められない。
止めるすべは、衛藤は知らない。
「いつも、そうだ!あんたは。俺がどれだけイライラしてるのか知ってるの?あんたが他のヤツと話してるのさえ、イヤなのに
 あんたを・・・あんたの音さえも独占したいのに・・・何で・・・そんな事、言うんだよ!」
「え・・・衛藤・・・くん・・・」
衛藤は、冬海に背を向けた。
情けない顔を見られたくない為に。
「あー、もう、かっこ悪い!くそ!あんたといるといつも調子が狂う。でも、好きなんだよ!どうしようもないくらい!」
「ごめんなさい・・・私・・・そんなに衛藤くんが思ってくれてるの・・・分からなかった・・・」
そう言いながら、冬海は衛藤の背中から抱きついた。
「笙子・・・?」
「あのね、私・・・衛藤くんに迷惑かけてるかと思って・・・でも、一緒にいると嬉しくて・・・でも、他の女の子と楽しそうに話してると
 イヤで・・・そんなのだから・・・嫌われちゃうじゃないかと思うと・・・怖くて・・・」
衛藤は、冬海のその言葉に驚いて、振り向いた。
「そっ、そんな事、思うわけないだろが!」
「・・・そうだね・・・」
「そうだよ、俺はあんたが好きだよ」
「私も・・・好きです」
二人の視線が絡み合う。
そして自然に唇が重なり合う。引力に引き合うように・・・


俺は、俺の音楽が変わるのが怖かった・・・
でも、お前は、一生懸命に変わろうとしていた。そこに惹かれたのかもしれない。



2009・8/15発行 いつも君のそばに 初出