きみしかいないんだ

「先輩、火原先輩」
あぁ、好きだなぁ…笙子ちゃんの声…

「どうしたんですか?あの…先輩?」
「あーごめん。うん、ごめんね」
ここは、学校の練習室で、せっかく笙子ちゃんと一緒にいるのに、ボーとしちゃって…
でも、こうして音を合わせるのっていいよなぁ…
それが好きな子だとなおさら…
「先輩?どこか具合が悪いんじゃぁないですか?」
「えっ?ううん。違う、違う」
慌てて目一杯、頭を左右に振る。
「でも、さっきから何だか上の空みたいで…あの…」
「あー、違んだ。うん、笙子ちゃんがいるのが嬉しいというか…えーと、なんて言ったらいいのかなぁ…」
一所懸命考えてみる。
「笙子ちゃんと二人だけで、音を合わせられるたりね、笙子ちゃんの声が俺だけに聞こえたり…
 あとね、こうして、笙子ちゃんに触れるのって嬉しいなぁって思ってさぁ…」
そう言いながら、笙子ちゃんの手と俺の手を絡めてみる。
そうすると、いつもの様に笙子ちゃんは、真っ赤になって下を向いてしまう。
可愛いなぁ…
こんなにも俺の心を占領してる目の前の女の子。
自分の気持ちを伝えるだけだったのに、彼女も同じ気持ちだったんだよなぁ…
あの時、すごく嬉しかったっけ。

「あの…先輩…」
「んっ?なに、笙子ちゃん」
「えーと…あの…手…その…」
「あー、ごめんね。でも、いや?こうして手を繋いでるの?」
「…そんな事…ないです」
「うん、じゃぁ、もう暫くこうしてていい?」
「…はい」
こうして手を繋いでると彼女の熱が伝わってくる。
俺の熱も伝わってるのかな?
「ねぇ、笙子ちゃん。俺ねぇ、好きだなぁって思うんだ」
「えっ?あの、何を?」
「うん、笙子ちゃんの声とか、笙子ちゃんの奏でる音楽とか、笙子ちゃんの小さな手とか…
 こうしてるとさぁ、本当に俺、笙子ちゃん事、好きだなぁってさぁ」
「…私も…先輩の…事…好き…です…」
「うん、分かるよ。笙子ちゃんも同じだよね」
「はい…」
「だからねぇ、いつまでも、ずっと一緒にいようね」
「はい」

いつまでも、ずっと…大好きなキミとキミの音楽と共に…



2006・9/24発行 きみしかいないんだ 初出