トラブル★デート

「俺と笙子は、遊園地に来ている。
「はい、とっても、楽しいです」
「そうか、それはよかった」
俺の横で笙子が笑ってる。普段より少し興奮気味で。
やはり、こういう所だと誰でもこうなるのかもしれない。
開放感があって、非日常な所。
誘ってよかったと思える。
こいつが、笙子が笑っているなら。

「あっ、梁先輩、あっちで何か演奏してるんですね?」
「ん?」
確かに何か音楽が聞こえる。
「えーと、あっ、小さいけど野外ステージがあるんですね、ここ」
そう言いながら、遊園地のパンフレットを覗き込んでた。
「ふーん、で、今なにか演奏してるのか?」
「えーと、はい。ぷちクラシックコンサートって書いてありますけど」
「…行ってみるか?」
「はい、行ってみたいです」
それが、悪かった。大体、この遊園地のチケットをくれたのが姉貴だった時に気付くべきだった。
あの姉貴がただで物をくれるなんて…


昨日、夜―
「梁〜、はいコレ、あげる」
ポンと紙切れ2枚が渡された。
「?チケット?」
「そう、遊園地のチケット」
「遊園地〜?なんでこんなもん、姉貴がくれるんだ?」
「ん?じつはさぁ、貰ったのはいいけど、期限が明日までなんだよね、それ」
「はぁ〜?明日?」
「そうそう、で、私は用事あるし、あんた、笙子ちゃんと行っておいで」
「なんで、命令するんだよ」
「いいじゃん、べつに。美人なお姉様がデートのきっかけを作ってあげたんだから」
とか勝手にチケットを押し付けて行きやがった。
いつもながら、勝手な姉貴だよなぁ、まったく。
「…あいつ、行くかなぁ?まっ、電話してみればいいか、どうせ、明日は休みだし」


で、なんでこんな事になるんだ!
今の俺は、なぜかステージの上でピアノを弾かされている。
すべて、姉貴の企みだった。
笙子とコンサートをやっている所に行ってみると、よく知っている顔がステージ上にいた。
(やばい!絶対に何かある。今までの経験上、何かする。姉貴は)
とっさに、笙子の手を引いてその場から立ち去ろうとした時、
「やぁ、君、梁太郎くんだろ?」
「えっ?あなたは?」
ステージ上の姉貴に向かって、
「土浦さーん、弟くん、捕まえたよ!」
「えっ、おい!なにを?」
そう言いながら、そいつは俺をステージ上まで引っ張っていった。
俺は笙子の手を離してないから、ついでに笙子のオマケ付きで。

「ふふふ、やっぱり来たね、梁」
…不適な笑い。何を企んでる。
「さぁ、ラストに飛び入り参加の現役高校生のピアノ演奏を聴いてもらいましょう!」
「なっ!何、考えてるんだ!俺は弾かないぞ!」
「ふーん、ここまできて弾かないの?情けないわね、梁太郎」
「……」
「わかったよ、弾けばいいだろ。一曲だけだぞ」
「そうそう、素直なのが一番。笙子ちゃんは、こっちね」

そう言いながら、笙子と姉貴はステージから降りていった。
もう、こうなったら自棄だ。好きな曲を弾かせてもらう。


一応、コンサートは無事に終わった。
「先輩、すごく素敵な演奏でしたよ」
「…ありがとうな」
「で、説明しろよ、姉貴」
姉貴は俺の事、無視しながら横にいた笙子に抱きついた。
「可愛い妹ができて、お姉さん嬉しいわ♪」
「…えーと…ありがとう…ございます」
無理やり笙子と姉貴を引き剥がす。
「姉貴!俺は説明しろって言ってんだぞ!」
「あら?あんた、いたの?」
「…いたのって…いるに決まってるんだろ」
「まっ、あんたが笙子ちゃん、なかなか家に連れて来ないからかなぁ?」
「それだけで、こんな事したのかよ」
「そうよ。悪い?」
はぁ〜、なんちゅう姉貴だ。
「あの…先輩、大丈夫ですか?」
俺が肩を落としてるんで、心配そうな笙子が声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だ。ただ、疲れただけ」
「土浦さん、打ち上げ、そろそろ行くよ」
さっき、俺を引っ張った男が声をかけてきた。
「えっ?そう。わかった、今行くね」
もう、さっさと何処かに行ってくれ。
「じゃぁ、笙子ちゃん、行きましょう!」
「えっ?」
「ちょっと、まて!なんで笙子を連れていくんだ?」
「あら、私は笙子ちゃんと話たいから。あんたは帰ってもいいから」
「…なに考えてんだ!」
ふいにジャケットの腕の裾を笙子が引っ張った。
「…梁先輩」
「笙子?」
笙子は、姉貴に向かって頭を下げた。
「えーと、すみません。今日は、梁太郎先輩と来たので行けません。ごめんなさい。
 後日、改めて、お家へ行きますので。それでいいでしょうか?」
「…あら、振られちゃたわねぇ。まっ、いいか」
そう言いながら、俺に一言。
「いい子じゃない、泣かすんじゃぁないわよ、梁太郎」
「あたりまえだ」
「そう」
「じゃぁ、笙子ちゃん。今度、家に遊びに来てね。楽しみに待ってるから♪」
姉貴は、先ほどコンサートの連中と帰っていった。



「はぁ〜、悪いなぁ。こんな事になって」
「いえ、そんな事ないです。とっても楽しかったです」
「そうか?あっ、それとさっきは、サンキュウな」
「?さっきですか?えーと?なにかしましたか、私?」
「姉貴の誘い、断ってくれて」
「あー、あの事ですか。だって…」
笙子は、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに小さい声で
「私…先輩と…もっと…一緒に…いたかったから…」
そんな事、いわれたらどう言ったら
「…そうか、ありがとう」
そうとしか、言えなくなる。ここに姉貴がいないのが救いだ。
俺は、髪をかき上げる。まだ、日が落ちるには早い。
「笙子、まだ時間はあるよな?次はどこに行きたい?」
「あっ、そうですね。えーと…」

ゆっくりでいい。俺達は、二人で歩き始めたばかりだから。
俺の横で笙子が笑ってる。それが大切な事だから…



2004・8/14発行 恋するたまご 初出