プレゼント

「はぁー」
大きな溜め息をつく。
只今、朝の通学の途中であって、朝から大きな悩みが出来た。

今日は、11月3日だ。
つまり、どうにかお互いの想いを確認して、晴れて恋人になった冬海笙子の誕生日。
10月の終わり頃に天羽や日野が、わざわざ俺に教えにきた。
「多分、知らないだろうから教えてあげる。
 11月3日は笙子ちゃんのお誕生日なんだから、絶対にお祝いしてあげなさいよ」
だ、そうだ。まぁ、確かに俺は、冬海の誕生日は、知らなかった。
知ってしまったからには、やはり祝いたい、喜ばせてやりたい。
それから、昨日まで色々と考えて、やっとの事でプレゼントを用意したのに…


プレゼントを考えてみても何も浮かば無かった。
冬海が何を好きか、なんて知らない。
ただ、冬海を思い出してみると、よく髪に飾りをつけているのを思い出した。
だから、雑貨屋に行ってみたら女ばかりだし、男がいたとしてもカップルだ。
そんな中に俺一人が入れる訳がない。
これが、火原先輩や加地とかだったら入れるんだろう。
俺には、無理だ。
そうなると何を贈ればいいのか、本当に分からない。
花とかは、俺のガラでは無いし、さてどうしようかと思っていた時にふと思い出した。
そう言えば、前に日野や天羽とケーキを食べに行ったとか言ってたような…
ケーキなら作れる。
しかし、学校に持って行くのはどうしたものか。
ケーキは、甘ったるい匂いがする。
そんなもん持ってた日には、絶対にクラスメートにからかわれる。
そんなに匂いのしないケーキがあったか?
頭をフル活動して思いついたのが、レアチーズケーキだった。
少し小ぶりのホールで作って、保冷バックで持っていける。
真夏ではないから大丈夫だろう。
そんな感じでプレゼントが決まった。
ケーキは、前日の夜に作って冷蔵庫に入れといた。
それが…


朝になって、冷蔵庫に入ってるはずのケーキが無い。
冷蔵庫の前で、固まってる俺の横を姉貴が
「何やってるのよ。邪魔」
「…ケーキが…」
「はぁ、あっ、あれ?美味しかったよ♪」
「食ったのかよ!」
「うん、だって美味しそうだったし、誰の物とも書いてないし…」
「勝手に食うなよ!」
「そんなに大事だったら、張り紙とかしておけばいいじゃないの!」
「…」
何てこった。せっかく、冬海の為に張り切って作ったのに…
どんなに文句を言っても、ケーキはすでに姉貴の腹の中だ。


そんな事があった為に、学校に行く足取りが重い。
どうやっても、冬海のプレゼントを渡すのは無理になった。
どうしたもんかと、朝から考えてる訳だ。
くそっ、俺の努力が無駄になっちまった。
とにかく、冬海の誕生日だから、何かお祝いしたい。
きっと冬海の事だから、何もいらないとか言いそうだから、余計に何かをプレゼントしたい。
そんな考えを一日中してたからか、何時に無く顔が怖いと友達に言われた。

最近の放課後は、約束をしていなくてもいつも一緒に練習室で練習をするのが、日課になっていた。
他の用事が入れば、お互いにメールで連絡する。
いつもならば、いやなメールも今日に限っては、くればいいと思ってしまう。
本当に自分勝手なのは、わかってる。
重い足取りで練習室のドアを開ければ、そこには先に来ていた冬海の姿があった。
「あっ、土浦先輩」
「あっ、ああ、早いな。えーと…練習するか?」
「…あの?」
「んっ?」
「なにか、ありました?」
「えっ?」
「いえ、あの…お昼に日野先輩が…」
「日野がなんだって」
「…土浦先輩が、何時にも増して機嫌が悪いみたいだって言ってたので、それに…」
「ぐっ…日野め、余計な事を…」
「私、何か先輩に悪い事、しましたか?」
「…はぁ?」
ちょっとまて。何でそこで、そういう考えになる。
「…あの、御免なさい。その、気が付かないうちに何かしたんですよね」
「ちょ、ちょっと待て。何でそうなるんだ?」
「えっ、だって…その…先輩…練習室に入ってから…私の方を見てくれないから…」
うっ、確かに後ろめたいような気がして、まともに冬海の方を見なかったのは確かだ。
しかし、それをそんな風に考えるか?いや、それが冬海なんだよな。
はぁと大きな溜め息を付き、観念した。
冬海を喜ばせたく考えてるのに、その逆の結果になってるのはどうしたもんか。
「悪かった。その、冬海が悪くは無い、絶対に」
「えっ…でも…」
「あー、そのなぁ…俺が機嫌が悪いってのはなぁ…」
そう言いながら、事情を話した。

「そうだったんですか。すみません、勝手に勘違いしてしまって…」
「いや、俺も悪かった」
「そんな事無いです。私、嬉しいです」
「はぁ?」
「だって…その…そんなにも土浦先輩が私の為に考えてくれたのが…とっても、嬉しいです」
そう言う冬海の姿は、とてつもなく可愛かった。
俺は、冬海のこういう姿が見たかったのかもしれない。
もっと、色々な冬海を見てみたいと思った。
だから…

「なぁ、冬海。お誕生日、おめでとう。その、プレゼントは、今度の休みに一緒に買いに行こう?」
その言葉に冬海は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で頷いてくれた。
その笑顔は俺の方が、最高のプレゼントを貰った様だった。



昨年のお誕生日企画でUPした物です。
すっかりこちらにUPするのを忘れて一年経ってました…(^^;