ダンスの相手は誰?〜衛藤桐也の場合〜

「あれは…」
今日は、星奏学院の文化祭なので、普段と違い色々と騒がしい。

正門近くで、あのコンクールのメンバーが演奏していた。
そこには、衛藤が気になってる彼女もいた。
少し以外な事に普段見ることの無いミニスカートを履いて、多くの人の前で演奏をしている。
それは、彼女の性格を知っている人間から見れば、大変珍しい事であった。
衛藤は、他の見物している人々と紛れてその演奏を聴いていた。
『へぇ、こんなに大勢いるのに、音、震えてないじゃん』
衛藤は、心の中で素直に感心していた。

『でも…なんか、ムカつく…』
それは、彼女に対してではなく、周りの観客に対してだった。
可愛いだの、あのクラリネットの子いいなぁとか聞こえてきたからだった。
たしかに、彼女は可愛いし、素直だし、努力家だし、そこら辺にいる子とは少し違う。
だからって…
『…なんで、あいつ等なんかに、愛想よく笑うんだよ』
衛藤のいる場所から、少し遠い場所で、冬海は、日野の後ろに隠れながら微笑んでいた。
「明日、コンサートやります。みんな、来てね〜♪」
火原和樹が手を振りながら告知していた。
「午後2時から講堂です」
火原の説明不足を柚木が補足して、コンクールメンバーは校舎の方に行ってしまった。
「明日の午後2時…」
衛藤はぼそりと確認のように呟きながら、少し遅れて、彼らの後を追った。

彼らは、普通校舎の廊下で演奏をしていた。
でも、それは先ほどの曲ではなく、さらにヴァイオリンは香穂子ではなく…
「葵さん…?」
そして、何だか楽しいそうに見えた。
しかし、演奏していた曲は、お粗末な結果だったが。
多分、初見だったのだろうと衛藤は感じた。
あのメンバーが練習していた曲を、こうもお粗末な結果にはならない。
そのメンバーを遠巻きに見ながら、衛藤は少しイライラしていた。
そのうち、クラスメートだろうか、呼びに来たらしく柚木、志水、冬海がそこから去っていった。
まぁ、火原はなんだか追っかけみたいのから、逃げていったが…
衛藤は、冬海の後を着いて行った。
『へぇ、あんな顔するんだ。まぁ、相手が女子だからか?』
冬海は少し、後ろを歩く衛藤には気づかなく、呼びに来てくれた子と色々と話している。
「ねぇ、冬海さんは後夜祭のダンス、誰と踊るの?」
「えっ?私…その…」
「あのコンクールメンバーかな?いいなぁ…あの人達さぁ、カッコイイし…あー、私も誰かいい人いないかなぁ…」
「…えーと」
そんな事を言っているうちに、冬海達は自分達の教室に消えていった。

離れているけど、冬海達の話は衛藤にも聞こえてた。
『後夜祭?そう言えば、そんな事、暁彦さん言ってたなぁ…あいつは、一緒に踊るヤツいるのか?』
衛藤の頭の中は、その疑問がグルグルと回っていた。


「ふぅ、疲れた…」
さすがに冬海も普段やらない様な事をした為に疲れていた。
でも、今日はもうクラスの手伝いもコンサートの宣伝も終わった。
これから少しは、文化祭を見て回る事ができる。
香穂先輩を誘ってみようか?それとも奈美先輩?忙しいかなぁ?
そんな事を思いながら、教室を出るとそこには、冬海が思いもしなかった人物がいた。
「えっ、衛藤くん?」
「よっ、もう終わったのか?」
「あっ、はい」
「そっか、じゃぁ、今日はもう何も用事はないんだよなぁ?」
「ええ、そうですけど…」
「じゃぁ、付き合え」
「えっ?えっ?」
そう言いながら、衛藤は冬海の手を掴んでズンズンと歩いて行く。
「あの…衛藤くん…どこに…」
「いいから、いいから」
戸惑ってる冬海を気にしないかのように衛藤は、練習室の扉を開けて、中に入っていく。
もちろん、衛藤に手を掴まれている冬海もそれに続く。
「あの?衛藤くん…?」
練習室に入ってからも衛藤は、冬海の手を離さない。
しかも、黙って冬海の事を見ている。
冬海にしたら、それは大変恥ずかしい事であった。
気になっている男の子に、じっと見つめられているのだから。
いつもの制服ではなく、滅多に履かないミニスカートにニーソックス。
似合わないのだろうか?
香穂先輩は、可愛いと言ってくれたけど、やっぱり似合わないのかもしれない。
そう、冬海が思ってる時にやっと、衛藤が口を開いた。
「あのさぁ、あんた…」
「っ、はいっ」
「…誰かと踊るの?あんたも…」
「?えーと、何の事ですか?」
「あー、後夜祭のダンス…」
「えっ?ダンス?あっ、いえ、お相手いませんし…」
「本当に?」
「はい…」
「そうか、いないのか、よかった…」
「あの?衛藤くん?」
「あー、気にしないでいいよ。じゃぁさぁ、俺が予約していい?」
「えっ?」
「だから、俺がその時間、予約したから」
「あの…でも、衛藤くん…ここの学校の…」
「んっ、かまわないだろ?明日、その後夜祭の時、ここにいるから来いよ」
「…えーと」
「いやだったら…来なくていいから…」
「えっ?そんなことは…」
その冬海の言葉を聞いて、衛藤はニヤッと笑った。
そうして、掴んでいる冬海の手首に唇を落とした。
「えっ、衛藤くん!?」
「約束、したからな」
真っ赤になってる冬海を見て、満足したように衛藤はドアノブに手をかける。
「あっ、そうだ。その格好、似合ってるよ。笙子さん」
「あっ、あの…」
「ついでに、結構度胸、ついたじゃん。外での演奏よかったし、明日、楽しみにしてる」
そう言いながら、衛藤は練習室から出て行く。

残されたのは、真っ赤になってる冬海一人。
冬海は、先ほど衛藤の唇が触れた手首だけが熱く感じていた。
「どうしよう…衛藤くんに褒められた…」
そう、嬉しそうな独り言が練習室に響いてた。



お久しぶりの更新で、すみません。
9月号のララとPSPの2fのオマケのCDで、ふとネタが湧いてきたので…
時間があったら、これの続きも書きたいです。
あと、土浦バージョンも考えてるんですが…そちらも出来るだけ早くUPしたい(希望…)