Andante

星奏学園に入って、コンクールに参加して、そして…
彼女の事を考えてる時間が、いつの間にか増えていた。
どうしてだか分からないけど、その時間は今も確実に増えてきている。
彼女が嬉しそうだと、僕も嬉しくなる。
そして、彼女の事を思いながら演奏すると、チェロから澄んだ音が奏でられる。
どうしてだろう…
でも、不思議と嫌な気分ではない。
もっと、もっと彼女の事を知りたい。
彼女の音を傍で聞いていたい。
どうしてなんだろう?この気持ちは?



「えっと、もう一回、言ってくれる?」
「はい、いいですよ。どうして、冬海さんの事、考えてしまうんでしょう?」
まだ、陽射しの強い屋上で日野と志水と火原が顔を合わせている。
合奏の合間の休憩時間に突然、志水が言い出した質問に驚いていた。
「冬海さんが嬉しいと僕も嬉しくなるんです。どうしてでしょう?」
さて、どうしたもんかと言う顔で、日野と火原は顔を見合している。
「あー、それは…何て言うか・・・えーと・・・」
どう言っていいか考えながら、顔を真っ赤にさせている火原和樹と対象的に
「それって、志水君が冬海ちゃんの事、好きなんじゃないの?」
とズバッと言う日野香穂子。
「僕が…冬海さんを、好き?」
「そう、だってそれしか考えられないし。ねぇ、火原先輩」
「うん、そうだよ。日野ちゃんの言う通りだと思うよ」
「って言うか、本当に分からなかったの、志水君?」
少し呆れて、日野は質問する。
「はい、こう言う気持ちは、初めてなんで…そうか、冬海さんの事…」
そう言いながら、志水は自分の世界に入ってしまった様だった。

「・・・はは、志水君らしいね、日野ちゃん」
「まぁ、そうですね、志水君らしいと言えばそうですけど…冬海ちゃんも大変だ…」
「えっ?冬海ちゃんがどうしたの?」
「いえ、何でも無いです」
「?」
「さて、志水君、火原先輩、そろそろ練習再開しましょう」
「そうだね、もう少しがんばろうか?」
「・・・志水く〜ん、練習しようよ!」
やっと、日野と火原の声が届いたらしく
「はい、わかりました。合奏しましょう」
二人の先輩は、志水のその様子を見て苦笑いをしていた。



風が心地よく吹き、陽射しも優しく照らしていた。
屋上では、チェロとクラリネットの音が、仲良く響いていた。
それは、お互いを支えあっているような音楽だった。
演奏を終えた冬海は、少しの間、その余韻を楽しんでいた。
志水と一緒に演奏するのが楽しいし、嬉しい。
もちろん、他のコンクール参加者との合奏も楽しいが、志水との演奏はまた違った嬉しさがあった。
一緒に音を重ねるのがただ、楽しい。
それは、純粋に志水が好きで、彼と一緒に音楽を作る喜びである。
それは自分一人だけの思い込みかもしれないが、それでも冬海はその時間が好きであった。
そんな事を思いながら、志水の方に視線を移すと、静かに目を閉じて彼も何か、考えているようであった。
冬海は、彼の瞑想を邪魔しないように、静かに彼の横に座った。
暫くの間、屋上は静かな風の音しか聞くえなっていた。

「やっぱり・・・うん、そうだ」
「あの…志水君…」
「うん、冬海さん。どう言ったらいいのかわからないけど…」
珍しく、志水が言葉を濁してる。
冬海は嫌に心臓が早く動いてるのが分かった。
自分と合奏するのが嫌になったのか、それとも…
こんな少しの時間で色々と悪い事を考えてしまっている。
そんな冬海の考えとは違って、志水の口から出た言葉は、
「僕は、冬海さんの事が好きなんだなぁ・・・って分かったんだ」
「・・・えっ?あの・・・」
そう言う志水は、冬海の瞳を捕らえていた。
「前に日野先輩と火原先輩に相談したんだ」
「相談?」
「うん、冬海さんが嬉しいと僕も嬉しくなるし、冬海さんならここは、どう解釈するかなぁとか・・・」
「・・・あの・・・」
「冬海さんの事、考えるといい演奏ができるんだ。それで、どうしてこんな気持ちになるのか聞いたんだ」
「・・・えっと・・・」
「先輩達は、僕が冬海さんの事、好きなんだよって教えてくれたけど・・・」
思いかけない志水の告白に、冬海の顔は真っ赤だ。
それでも、志水の瞳からは、離せないでいた。
「僕、よく分からなくて…でも、今、一緒に演奏して、分かったんだ」
「・・・あの、何が分かったの?」
「うん、冬海さんと一緒にいるのが、合奏するのが、こうして話してるのが嬉しいって事」
「///」
「こう言うのが好きって事なら、僕は冬海さんが好きだって。でも・・・」
ふいに志水は、冬海の手を取って、
「冬海さんは、迷惑?」
「そっ、そんな事・・・無いです・・・」
「本当に?」
「本当です。だって…私も・・・同じだから・・・」
その言葉を聞いて志水は、微笑んだ。
「よかった。冬海さんも同じで」
「私も・・・」
幸せな時間、共に歩んでいく未来。
優しい風が吹いている。
まるで世界中のファータ達が祝福してるかのように…





サイトで「冬海ちゃんのお相手は?」でアンケート結果で一番になった志水君です。
志冬は、とにかくほのぼのというか、マッタリした雰囲気です。 それが、出来るかは別として(苦笑)