はっぴぃ☆はろうぃん♪
■□■ 加地編 ■□■
■□■ 土浦編 ■□■
●○● お茶会へ行こう編 ●○●


■□■ 加地編 ■□■

やっぱり、森の広場の隅で練習していた。
周りには誰もいない。
控えめで、澄み切った音。
僕が憧れている音。

その音が終わるのを待って、彼女の後ろに回る。
そして、彼女の両肩に手を置く。
このセリフと一緒に。
「Trick or treat!」
「きゃっ!?」
「ふふ…ごめんね。脅かして…」
「えっ…あっ、加地先輩…」
クラリネットを両手でしっかり抱いて、頬を赤らめて本当に可愛い。

「Trick or treat♪」
「えっ?」
「Trick or treat」
「えーと…」
やっぱり、困ってる。
困るのを分かってて、やってるだから…
多分、お菓子なんて持ってないだろうから…

「お菓子ですよね…」
「うん、そう。お菓子くれないとイタズラね?」
「…はい。これでいいですか?」
そう言いながら、彼女の小さな手には、可愛くラッピングされた飴があった。
「…えーと、これじゃぁ、ダメですか?」
思わず、呆けてたみたいで、冬海さんの声で我に返った。
「えっ、あっ、いや、飴でもお菓子だし…」
「よかった。イタズラは困りますし…」
少しホッとした顔も可愛い。
そんな事を思ってしまう。

「でも、よく飴持ってたね」
「えーと、あの、土浦先輩に貰ったんです」
「土浦に?何で?」
「えーと、あの今朝、正門前であった時に…」
「で、その時、貰ったの?」
「はい、何でも今日、一日持ち歩いてろと言われて…」
「…」
土浦のやつ、予防線を張ったな。
こうなる事を見越して、冬海さんに飴を渡したな。

「じゃぁ、冬海さん今日の帰り、一緒に帰らない?」
「えっ、あの…今日は…」
「んっ?何か予定あるの?」
「はい、土浦先輩と…」
「…土浦?」
「はい、ごめんなさい」
また、土浦にやられた。
これは、仕返ししないと気がすまないなぁ。
ふと、いい事を思いついた。

「あー、それね。大丈夫だよ。日野さんと天羽さんも一緒だから。もちろん、土浦もね」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。みんなでお茶しようって話だったんだよ。土浦、言ってなかった?」
「はい。そこまでは…」
「じゃぁ、忘れちゃったんだね、きっと」
「そうですね」
「もっと、話してたいけど、練習の邪魔だろうから行くね」
「はい」
「じゃぁ、またね」

さて、日野さんと天羽さんを探さないと。
さっき、二人で帰りにおいしいケーキのお店に行くような事、言ってたから誘っても大丈夫だろう。
土浦が悪いだからね。
これくらいのイタズラは可愛いよね。
土浦がどんな顔をするのか楽しみだな。まぁ、想像はできるけど…


でも、冬海さんは喜ぶかな?
彼女が喜ぶ事、嬉しい事なら何でも叶えてあげたい。
それが、最近の僕の願い。

このページのTOPへ


■□■ 土浦編 ■□■

夜にふと見たTVで明日がハロウィンだって事を知った。
まぁ、こんなイベントは自分には関係ないからと思っていた。
…いたはずだった。
姉貴の一言がなければ…
「梁、ハロウィンに託けて、好きな子に手を出すんじゃないわよ」
「誰がするか!そんな事!」
まったく、なに考えてるんだか。
でも、好きな子と言われて、ふと冬海の顔が浮かんだ。
…いつもオドオドしてるけど、芯が強いアイツ。
なにかにつけて、つい助けてやりたくなる。
アイツが笑顔でいて欲しいから…

そんな事を考えていた時、テーブルの上にある物が目に留まった。
可愛い包装紙の少し大きめの飴がいくつかあった。
「母さん、これは?」
「んっ?あーこれ。ピアノ教室の生徒さんから貰ったのよ。欲しかったら、持ってていいわよ」
「あー、じゃぁ、貰っとく」
「でも、珍しいわね。梁が甘いもの欲しがるなんて」
「たまにはな」
「はいはい。好きなだけ持って行きなさい」
「ああ」
そう言って俺は、飴を3個ほど貰って自分の部屋に戻った。
自分では食べるつもりはない。

さっきの姉貴の言葉で、気がついたから。
ハロウィンは、お菓子がないとイタズラされる。
俺が知る範囲では、約一名実行しそうなヤツがいる。
冬海がイタズラされるのは、困るから…


今朝は、この時間に登校してよかった。
正門手前で、冬海を捕まえる事が出来て。
どう渡したらいいか、困っていたから。
他愛もない話を少ししながら、並んで歩く。
不思議な感じだ。
少し前までは、こいつは俺の顔を見ると逃げ出してた。
でも、今ではこうして一緒に歩いて、話をしている。

エントランスまでもう少しの所で、
「なぁ、冬海、手を出せ」
「えっ、はい」
冬海は言われたままに小さな手を差し出した。
その小さな手の上に昨日貰った飴を置いた。
「あの…これ…キャンディ?」
「いいから、持ってろ」
「はい。でも、どうして?」
「とにかく、食うのは帰ってからにしろ」
「はい?」
「いいか、今日一日、持ち歩いてろよ」
「…わかりました。でも、ありがとうございます」
「なんで、お礼を言う?」
「えっ?だって、キャンディを貰ったんで…」
「ああ、そうか…」
飴を渡す事ばかり考えてから、そんな事も気が付かなかった。
「可愛いキャンディですね」
嬉しそうな冬海を見てると、こっちも何故か嬉しくなる。
だから、もっと見てみたくなる。
「なぁ、冬海。今日の帰り、一緒に帰らないか?」
「あっ、えーと、はい」
「そうか、じゃぁ、正門で待ってるから」
「はい、わかりました。遅れないようにしますね」
「急がなくてもいい。しっかり練習して来い」
「はい」
気が付くと、ここで冬海と分かれなくてはいけない場所まで来ていた。
「あっ、もうここか。じゃぁ、またな」
「はい」
そう言いながら、俺は普通科校舎に、冬海は音楽科校舎に歩き出した。
さて、今日はいい日になりそうだ。
朝からアイツに会えたから…

俺はこの予想がある意味、当たっている事だとはまた、この時は知らなかった。

このページのTOPへ


●○● お茶会へ行こう編 ●○●


「…なんでお前がここにいる」
「えー、やだなぁ、土浦。みんなでお茶するんだよ」
「はぁ?なんだって。俺は、用事が…」
「冬海さんとの用事でしょう?」
「何で…知ってる…」
「やだなぁ、そんな怖い顔で睨まないでくれる?」
「…」
「まぁ、大丈夫だよ。冬海さんには言っておいたから」
「約束はこっちが先に…」
「土浦がいけないんだよ」
「えっ?」
「あっ!冬海さん、日野さん、天羽さん、こっち、こっち」

「ごめんね、加地君、土浦君。遅れちゃって」
「うん、大丈夫。そんなに待ってないし…気にしないで、日野さん」
「…なんか、機嫌が悪くない、土浦君」
「別に…」
「天羽さん、土浦の事は、気にしない、気にしない」
「あの…」
「…ふぅ、気にするな、冬海」
「でも…」
「まぁ、まぁ、今日は何処に行く?」
「あっ、それね。天羽ちゃんの情報だと、駅前の喫茶店にハロウィン限定のケーキがあるんだよ」
「そうそう、それがかなり美味しいらしいんだ」
「そうなの、さすが天羽さんだね」
「まぁね」
「楽しみです。こうして皆さんで行けるのは…」
「そうだよね、楽しいよね。冬海ちゃん」
「さて、行きますか?こうしてても仕方ないし…」
「ねぇねぇ、天羽ちゃんは何、食べるの?」
「うーん、そうだね…」
「どれにするか、迷いそうですね…」

「いい加減、機嫌直しておいた方が良くない?土浦」
「…お前が悪いんだろ、加地」
「でもさぁ、冬海さんのあの顔見たら、どうでも良くない?」
「…わかったよ、今日は勘弁してやる」
「ふふ、そうだよね。あんな楽しそうな顔されたらね」
「もう、こんな事するな」
「さぁてね、どうかな?」
「っ、加地!」
「はは、冬海さーん、俺も話に混ぜて♪」

「…まったく、加地のヤツ。でも、本当にあんなにも楽しそうな顔されたら何も言えないよなぁ…」



土浦VS加地なハロウィンの話です。
9月の新刊でこの二人の話を描きまして、その延長なような感じです。
普通科2年の冬海ちゃん争奪戦(笑)
書いてて楽しかったですけどね。
最後は、セリフのみで構成してみたんですが、登場人物が多くて困りました。
だって、誰が喋ってるのか分からなくなってしまって…
何となく分かりますか?
本当に難しいですね、小説は…