笑顔

「あいつ、どこに行ったんだ?」

いつもは、練習室か屋上か音楽室のいづれかにいるのに。
今日に限っていない。

「という事は、日野か天羽に捕まってるか?」
そんな事を考えながら、音楽室の扉を閉めた。
その時、視界の端に知っている人物が映った、月森だ。
「・・・しかたない、あいつに聞くか」
そうと決まれば、見失う前にさっさと聞くに限る。
「おい、月森!」
その声に歩いていた足は、ピタッと止まる。そして、不機嫌そうな顔をした月森が振り返った。
「なんだ?君か。俺に何か用か?」
「ああ、笙・・・冬海、知らないか?多分、日野と一緒だと思うんだが?」
「なんで、俺に冬海さんの居場所を聞くんだ?君の方が分かるんじゃないか?」
最近になって、前よりかマシに話すようになったが、やはりこいつは苦手だ。
「日野と一緒だと言ったろ?日野の事は、お前の方がよく知ってるだろ?」
「・・・香穂は森の広場に天羽さんと何か話していたが、そこに冬海さんはいたか知らない」
「そうか、まっ、サンキュウ」
その場を立ち去ろうとしたが、月森が何かを言いかけて止めた。
「なんだ?何かいったか?」
「いや、こう言っては失礼になるが、君が冬海さんと付き合うとは思ってなかった」
・・・それは、はっきり言って失礼だぞ、月森。
「まっ、いいけどな。それに対しては、俺自身も驚いているんでね」
そう言いながら、月森に背を向けて歩いて行く。行き先は森の広場。

「あんな所に・・・見つからないはずだ」
広場の奥、3人が円を描くようにしゃがんで話していた。
いつもの癖で髪の毛をかきあげる。
「何やってるんだか」

かなり近づいても誰も気づかない。どうやら、話に夢中なようだ。
話し声もここまで近づいてるので、内容も少し聞こえる。
「・・・だから、そこでオシが足りないのよ!香穂!」
「えー、だって恥ずかしいし・・・それに・・・」
「何が、恥ずかしいのよ!冬海ちゃんもそう思うでしょう?」
「あの・・・私は・・・その・・・」
「あーもー、この2人は!私が教えてあげるわよ!男なんてね・・・」
なに、言ってるんだ?何となく会話の内容は、わかる気がするが・・・
「なに、教えてくれるんだ?天羽?」
天羽の真後ろに立ってわざと、低い声で聞く。
天羽は蛇に睨まれた蛙のように固まった。

「・・・土・・浦・・・くん?」
「なに、やってるんだまったく。くだらない事ばかりこいつらに教えるな」
「先輩・・・あの、どうしてここに?」
「ああ、お前に用事があって探してたんだが・・・」
笙子の頭をポンポンと軽く叩く。
「こいつ、もらっていいか?」
「えーと、別にいいよ。たいした話してなかったし」
「そうか?やけに真剣に話してたみたいだが?」
「ははは・・・そんな事ないよ〜ねぇ、香穂?」
「そう、そう、たんなる雑談。ねっ、笙子ちゃん?」
いきなり笙子は、話を振られてオタオタしている。
「えっ?えっ、あっ、・・・そうです」
「えーと、私も蓮君が待ってるから行くね、じゃぁね」
ここぞとばかりに日野は逃げるように駈けて行った。まっ、実際逃げたんだが。
「あー、私も行かないと。では、お二人さん」
天羽も逃げた。

ふぅーと溜め息が出る。ふと、横を見ると笙子が心配そうに見上げている。
いつからか、こいつが気になっていた。最初は風が吹けば飛ばされそうな奴だと思いっていた。
色々と話してみて、一緒に行動してみてわかった。
それは、間違えでこいつは、とても芯が強い。俺なんかよりも心が強い。
そう思った。いつのまにか気になって、惹かれていた。

「梁先輩?どうしたんですか?」
俺が何も言わなくなったのが心配にでもなったのか、笙子が聞いてきた。
「あー、いや何でもない」
「そうですか?私に何か用事があったんでは?」
「おっ、そうだ。これを渡してくれって、金やんが」
そう言いながら、ポケットに入れていたプリントを差し出す。
「わざわざ、ありがとうございます」
本当に小さくてか弱くて俺が抱きしめたら、壊れそうで小さい笙子。
そう思っていたら、いつのまにか笙子を抱きしめていた。
「・・・梁・・せんぱい?なにかあったんですか?」
「あー、いや・・・なんとなく」
「・・・?なんとなくですか?」
「いや、違うな。こうしたかったんだ。落ち着くから」
「・・・私は・・・ドキドキします」
ふと見ると、俺の腕の中で真っ赤になっている笙子がいた。
ポンポン、といつもの様にこいつの頭を叩く。
そうすると、こいつはとびっきりいい笑顔を俺にくれる。
この笑顔をいつまでも見ていたいと思う。


<後日談>
「天羽〜!これはなんだ!」
机の上に学校新聞を叩きつける。
「へ?あーこれ。いい写真、撮れたでしょう?」
そこには、あの時の俺と笙子の写真が載っていた。
「ふふふ、また、いいシャッターチャンスを期待してるから♪じゃぁね」
天羽の後姿を見ながら俺は誓った。
もう、学校ではあーいう事はもうしないようにすると。
ついでに俺達以外にも被害にあってる奴らがいた。
月森と日野だった。



言い訳・・・
うー、土×冬です(^^;
だって、だって、このカップリングないんだもん。自給自足しかなかったんだもん。
いいの、自己満足だから。でも、難しかったです。自分、物書きさんではないので。
本当に文章は難しいです。何度書いても気に入らないし。
で、こんなもんでも読んで下さって、ありがとうございました。